バレンタインや、公式試合あとは毎回、下駄箱に女子生徒からのさまざまな贈り物が詰められている。
下駄箱だけじゃない、階段を上がって自分の席をみれば机に山のように置かれている箱やら手紙やら。
たいてい差出人は書いてある、最も顔と名前が一致しないことがほとんどなのだが。

『がんばってください』とか『応援してます』っていう内容のものがほとんどで、「好きです。」っていう告白の類は意外に少ない。
「今日も大量だにゃぁ。」
同じく山積みの机を見た英二がその中からお菓子らしき箱を見つけて喜んでいる。




ラケットバックのジャージを取り出したら全部入るだろうか、生憎手提げは持ってきていない。
入るだけ詰めようと、贈り物を一つずつ手に取って、バックに入れる作業を繰り返す。

視線はバック内の整理に向けられていて、荷物を掴む手は手探りだ。

もうそろそろ詰め終わるだろうかという時、バック内へ持ってきた僕の手が握る手紙に目を細めた。


「…黒い封筒に、白い文字?」


どうやら白い文字は修正液で書かれているようだ。
ピンクやら淡い青などのファンレターが多い中、それは一際目立った。

何というか、なんともいえないオーラを放出している。

その封筒をゆっくり机の上に戻す。とりあえず他のものをすべて詰め込むことに成功した。


ゴクリ、再び黒い封筒を手に取り生唾を飲み込んだ。
表には「不二周助様」、裏に差出人の名前はない。その代わり真っ赤な蝋印が押されている。

あまりに珍しい贈り物に、好奇心が高鳴った。蝋を切ると、中には真っ白な紙に黒い文字。

こちらはどうやら普通なようだ。




















不二周助様


いつも言おうと思っていたんです。愛しています、って。
でも言えないので書きました。
以上です、読んでくれてありがとう。

PS:昨日の引退試合カッコよかったです。















「…え、これだけ?」
重層な封筒の割りに用件はこれかと、正直あっけに取られてしまった。

でも可愛いな、そう思った。『言えないから、書きました。』か。


差出人は想像がついた。
ホームルーム5分前、知っている香水の香りがして顔を上げると、待っていた彼女が「おはよう、不二君。」といつもの笑顔で挨拶をくれる。


「おはよう。」
この会話が1日の始まりに実感を与えてくれる。カバンを置いた彼女を追いかけてしまう瞳は恋をしている。





さん、ありがとうこの手紙。」
「あ、やっぱりバレた?」

付き合っていたわけじゃない。

同じクラスになって一緒に帰ったり、休日一緒に出かけたり、恋人らしいことはしていたけれど立派な関係があったわけではなく、受身な僕は彼女のほうから告白を言い出してくれるのではないかと期待していた。

だけどこの2年、そんな期待が現実のもになることはなく過ぎていった。





「ありがとう、待っててくれて。」


『不二君、今は大好きなテニスに打ち込んだほうがいいよ。』
そんなことを何回目かのデート(…と僕は思ってる)で言ってたよね。


昨日の試合で部活を引退するまで、僕を今まで待っててくれてありがとう。

「いえいえ、お疲れ様でした。」

もう告白しても良かったかな、と笑う彼女が最高に愛しかった。



























「懐かしいな、ほら。」
「…周助君、その手紙まだ持ってたの?」

「もちろん。はじめて「愛してる」っての意思表示、捨てるわけないじゃない?。」

彼女と僕を正式に結びつけた黒い封筒は今も、そしてこれからも中学時代のアルバムの中で眠っている。









END






















Special Thanx: Image by
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